『日経Robotics』2016年6月号24頁で、筆者のロボットPL法理が紹介されました。

自動運転 の 倫 理 : 「 ト ロ ッ コ 問 題
(The Trolley Problems) (下図)

「ロボット法研究会」 設立記念シンポジウム
May 21 (Sat), 2016
のパネル・デスカッションで議論しました。

被害最小限化の為には、自動運転車("AV")は(2)又は(3)を選ぶべき。
しかしその選択は、酒酔い運転車(1)を利して、落ち度無きSUVやAVを罰することに成る?!

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"ロボットPL" 

RT(Robot Technology)
製造物責任
(Prod. Liab.)の研究

Studies of Robots and Products Liability

中央大学 教授 (総合政策学部)
同 大学院 総合政策研究科 委員長
米国弁護士 (NY州)

平野 晋

関連ページは「現代製造物責任法の研究」「現代不法行為法理論」及び「ファーストフード(外食)により肥満症を生じさせた損害に対する賠償責任の研究」及び「熱いコーヒーは欠陥であると主張する製造物責任の研究」。

Susumu Hirano
Professor, Faculty of Policy Studies, Chuo University (Tokyo, JAPAN)
Member of the New York State Bar (The United States of America)
Copyright (c) 2004-2016 by Susumu Hirano.   All rights reserved. 但し当ウエブページ作成者(平野晋)の氏名&出典を明示して使用することは許諾します。 もっとも何時にても作成者の裁量によって許諾を撤回することができます。当ページ/サイトの利用条件はココをクリック Terms and Conditions for the use of this Page or Site.

当サイトは製造物責任法(Products Liability)の研究および教育用サイトです。

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 海外「ロボット法学」(海外論文等)の分析は、
ロボット法学」をクリック下さい。


(PWは以下経由にて筆者にお問い合わせ下さい。)

中央大学「取材申込」ウェブページ
http://www.chuo-u.ac.jp/aboutus/communication/media/

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自動運転(AV: Autonomous Vehicles)・人工知能(AI)の直面する課題例:
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「人工知能は電子羊の夢を見るか?」
(human-like consciousness (*3)) (↙⇙)

"Does AI Dream of Electric Sheep?!"


問: 以下のSci-Fiの名作3作品に共通するテーマは何でしょうか?(*1)

  • 2001年宇宙の旅」の "HAL 9000"(*2) (スタンリー・キューブリック監督)
  • ブレード・ランナー」の "Replicants" (2019年のLA)(ハリソン・フォード主演、リドリー・スコット監督) 
  • ターミネーター」の "Skynet" (2029年(*4)のLA) (アーノルド・シュバルツェンエッガー主演、ジェームズ・キャメロン監督)

(*1)David C. Vladeck, Machines without Principals: Liability Rules and Artificial Intelligence, 89 WASHINGTON L. REV. 117, 119-120(2014)を参考に、筆者が修正して起案した問題。回答のヒントは、Oxford Univ.のNick Bostrom教授達の指摘; "singularity"

(*2) Heuristically programmed Algorithmic computerの略語。Id. at 119 n.10. ところで、「IBM」を一文字づつヅラしたことの意味が指摘されている。

(*3)例えば宇宙飛行士DavidはHALについて、映画の中で次のように述べている。 "[A]s to whether he [i.e., HAL] has real feelings is something I don't think anyone can truthfully answer." と。Id. at 119 n.12 (emphasis added).

(*4) "Skynet [in 2029] becomes self-aware and decides to wipe-out mankind through a nuclear holocaust." Id. at 120 n.13 (emphasis added).

__________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________.

一人の生命は [本当に] 全地球より重い[か?]」(*5)/ . . . より重いべきか?」

(*5) 最(大)判昭和23312日 刑集23191頁。  
    "Is a person's life heavier than whole of the planet earth?"
    "
Shall a person's life be heavier than whole of the planet earth?"

ハイポ(hypothetical)仮想事例 (descriptive ["is"] Q. / normative ["shall"] Q.)

  • 自動運転車("AV")の進行方向前方に突然、幼稚園児が飛び出して、AVがブレーキをかけても間に合わず、その子を救う為にはハンドルを右にきるしか手段が残されていなかった
  • しかし右の歩道にはご老人が歩いていて、ハンドルを右にきるとその老人を轢き殺してしまう。
  • なお人間がとっさにハンドルを握れば、手動に切り替わる設計になっている。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


#1 (Descriptive "is" Q.) もし乗員(人間)がとっさにハンドルを握った場合、その運転者(人間)はおそらく
  
  (a)ハンドルを右にきるように行動するか、又は
  
  (b)ハンドルをきらずに、そのままの状態を維持するように行動するか?


ヒント#1: 「不作為性向(ommission bias)--- 以下の筆者の著書 『アメリカ不法行為法』 参照。






#2 (Normative "shall" Q.) 仮に手動を許さずに、常に人工知能("AI")が自動運転するような設計のAV(自動運転車)であれば、AI

  (a)ハンドルを右にきるように行動すべきか?又は、

  (b)何もせず直進するように行動すべきか?



#3 (Normative "shall" Q.) AVの設計においては、そもそも:

  (i)人間による手動を優先させる機能を組み込むべきか、又は、

  (ii)手動を許さない設計(常にAIが運転する完全自動)にすべきか?


参考: 「中華航空エアバス墜落事故事件」 名古屋地判平成15・12・26判時185463頁(着陸の為に機首下げ方向へ操縦輪を倒し昇降舵が下がっても、オートパイロットは機首上げ方向の自動操縦を解除せずその指令を継続さてしまう為に水平安定版が機首上げ側に作動したので、結果、二つの相反する指令が反発し合って、昇降舵と水平安定板が「く」の字型と成り、不釣り合いな安定性欠如(アウト・オブ・トリム)状態を引き起こし、これにより失速し、本件事故に至ったエアバス社の設計思想の設計欠陥性が争われた事件。ボーイング社製は手動で操縦輪に力を加えるとオートパイロットが解除される設計等を採っていた。裁判所はオートパイロットが解除されない設計の争点について、 . . . )
__________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________



この問題の難しさについては、いわゆる「フォード・ピント事件(*)、及び 以下 拙著 『アメリカ不法行為法』 参照。
   (*) Grimshaw v. Ford Motor, Co., 119 Cal.App.3d 757 (1981). 筆者のウエブページ「フォード・ピント事件の真相」も参照。




【未校閲版】 without proof

目次

ニュース

ロボットの定義

  ロボットの語源

  ロボット/人工知能は、意思、感情、考え、等を有するか?

製造物責任法の要件

グローバル・スタンダードを規範として考えるべき

グローバルな欠陥基準の概要

設計欠陥及び指示警告欠陥への対策が一番重要

グローバルな欠陥基準の特徴 (ロボットに関連するもの)

諸要素の考慮・衡量 (日本)
諸要素の考慮・衡量 (欧州)
諸要素の考慮・衡量 (米国)
「消費者期待」の要素 (日欧)
「消費者期待」の要素 (米国)
「不十分な指示警告」も欠陥 (日欧)
「不十分な指示警告」も欠陥 (米国)
指示警告の前に求められる安全設計 (日本)
指示警告の前に求められる安全設計 (米国)
明白な危険と予見可能な誤使用 (日米)

以下、「ロボットPL 2」のページ参照。

安全規制法令順守の効果 (日本)
安全規制法令順守の効果 (米国そのI)
安全規制法令順守の効果 (米国そのII)
業界基準の考え方 (日本)
業界基準の考え方 (欧州)
業界基準の考え方 (米国)
意図した機能に反した事故発生時の責任 (日本)
意図した機能に反した事故発生時の責任 (米国)

「自己責任」の縮小に伴うhuman factors engineeringの必要性

「自己責任」ではなく、優しくない製品にこそ「事故」責任があるという傾向
指示警告欠陥という概念の出現
「明白な危険」の抗弁の弱体化
新規な訴訟の発生
human factors engineeringの重要性拡大

ロボットの「危険」意識への取り組み方

「危険」とは何か: 合理的基準
公衆による危険意識: 価値的諸要素
制御不能・非自発的な危険
未知の(新規な)危険
カタストロフィー的な危険
ロボットの危険性の分類化の必要性

製造物責任訴訟で不利に扱われるリスク

事故が起こり易い状況で使われる製品には、責任を課され易いという現実

ロボットの製造物責任上の問題点

ロボットにとって何が「通常有すべき安全性」なのかが確立されていない点が、問題。
より素人が使う場合には、よりユーザー・フレンドリーにする必要性。

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ニュース




人工知能・IoT、ロボット、自動運転、等を検討する有識者会議

総務省 「ICTインテリジェント化影響評価検討会議」の

座長代理」に選出されました。

Feb. 05, 2016



_____________________________________________________________________.

ロボット法学会の設立準備研究大会に於いて、研究報告を行いました。

_____________________________________________________________________.

総務省で筆者が議長を務めた、有識者会議の取りまとめが公表されました(以下)。

Oct. 06, 2015




「近未来におけるICTサービスの発展を見据えた諸課題の展望」  (別紙1)
「近未来におけるICTサービスの発展を見据えた諸課題の展望(概要版)」  (別紙2) 
______________________________.


筆者が議長を務めた総務省の有識者会議が、以下のNHKニュースで報道されました。


______________________________.

  
「日経新聞」に、筆者のコメントが掲載されました。以上「法務」の欄(2015年1月19日)を参照下さい。
First Up-loaded on Feb. 10, 2015.

______________________________.

 「日経新聞」に、筆者のコメントが掲載されました。以下「法務」の欄(2014年4月28日)を参照下さい。

First Up-loaded on May. 2014.

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BSフジ」の科学番組「ガリレオX」で筆者のコメントが放送されました。
(中央大学に於ける本件の紹介はココをクリック下さい。)
ロボット(PL)製造物責任・ロボット損害保険に関する内容です。

番組名「ガリレオX」
***題名「ロボットと法: ロボットに責任を問えるか?」***
放映日時: 2014年3月16日(日曜)ひる11:30~12:00

First Up-loaded on May. 2014.

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製造物責任法に関する論文が、以下の学術雑誌に掲載されました。

   

First Up-loaded on May. 2014.

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ロボットの定義

以下、経済産業省ロボット政策研究会による定義です。

センサやビジョンセンサ等により外界や自己の状況を認識し、
これによって得られた情報を解析し、
その結果に応じた動作を行う ...
つまり、人間でいう『感覚・頭脳・筋肉』の機能をある程度備えた機械システムであるといえる。

出典: 経済産業省 ロボット政策研究会 「資料5 ロボット産業・技術及び関連政策の現状」9頁(平成17年 [2005年] 1月28日).

First Up-loaded on Mar. 2005.

________________________________________________________.

以下、Ryan Caloの定義です。上の経産省の定義に近似していると思われます。

センサによる感知 ;
考えること、創発(自律)性 ("emergence" rather than "autonomy")[1]); 及び
行動すること、アクチュエイター(駆動装置)

すなわち 「
sense-think-act cycle」。


[1] Ryan Caloはhuman –like consciousness」や「intent」を、ロボットは有さないと考える前提が重要ゆえに、「autonomy(自律性)よりも「emergence(創発性)の文言を筆者が使用。

出典: Ryan Calo, Robotics and the Lessons of Cyberlaw, 103 CAL. L. REV. 515, __ (2015).

First Up-loaded on Mar. 2016.

______________________________________________________.

その他にも、同様な3要素で定義付ける例の出典を以下のように、Dan Terzian, _The Right to Bear (Robotic) Arms_, 117 PENN ST. L. REV. 755, 759 n32 (2013)が挙げています。

First Up-loaded on Apr. 2016.

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 ロボットの語源 

 語源は、1921年初演で、Karel Capek作のチェコの演劇「R. U. R. (Rossum's Universal Robots)」。
 演劇中では「robota」という用語を用いており、その意味は「重労働 (heavy labbor)」。

F. Partrick Hubbard, "Sophisticated Robots": Balancing Liability, Regulations, and Innovation, 66 FLA. L. REV. 1803, 1806 n.1 (2014).

First Up-loaded on May. 2016.

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 ロボット/人工知能は、意思、感情、考え、等を有するか? 

Tetyana (Tanya) Krupity, Of Souls, Spirits and Ghosts: Transposing the Application of the Rules of Targeting to Lethal Autonomous Robots, 16 MELBOURNE J. OF INT'L L. 145, 199 (2015); David C. Vladeck, Machines without Principals, supra, at 119 & 120 nn.12 & 13; Chip Stewart, Essay, Do Androids Dream of Electric Free Speech? Visions of the Future of Copyright, Privacy and the First Amendment in Science Fiction, 19 COMM. L. & POL'Y 433, 457-59, __ (2014) (self awareness, free will, ___); ______.

First Up-loaded on Apr. 15, 2016.

製造物責任法の要件

「過失」に代えて「欠陥」を要件としたものが、現代製造物責任法。   ∴ 製造物責任=「欠陥責任」。
抽象化・客観化。 しかし、そもそも過失概念も既に抽象客観化されて来ていましたが…。 I.e., a Reasonable Person Std.

参考:

 一般不法行為 (過失責任主義) 

故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス」(民法第709条)(下線付加)

製造物責任法 (欠陥責任)

製造業者等は、…製造物…の欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。 …。」(製造物責任法第3条「製造物責任」)(下線付加)

First Up-loaded on Mar. 12, 2005.

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グローバル・スタンダードを規範として考えるべき

世界で最も進んでいると言われるロボットの実用性の成功と在るべき方向性の構築は、日本市場だけを視野とする狭い立場で検討しても駄目でしょう。

安全性の検討も、極東の辺境地の古い法律規範だけを見ていては、とてもグローバルとは言えないはずです。

製造物責任法規範についても、全く同じことが言えるのではないでしょうか?

同法規範に関して最も進んでいるアメリカを指針として学び、アナロジーを用いて行くことが不可欠でしょう。

First Up-loaded on Feb. 2005.

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グローバルな欠陥基準の概要 

RESTATEMENT (THIRD) OF TORTS: PROD. LIAB. §2 (1998) (emphasis added).   
First Up-loaded on Mar. 12, 2005.

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「設計欠陥」及び「指示警告欠陥」への対策が一番重要

「製造上の欠陥」は、理論的に米国に於いて、完全な無過失責任なので、製造業者側としてはとにかく生産過程における外れ玉を少なくするしか対策は無いようです。 すなわち、従来品への品質管理(QC)から変わる特殊な問題は提示していません。

しかし、「設計上の欠陥」と、「指示警告上の欠陥」の分野については、これから開発する新たな種の製品なので、安全性向上のための注意を注ぐ必要性が高いと思われます。

その際、以下、逐次説明するように、従来型製品設計の際に考慮した以上にhuman interfaceを重視し、優先度を付けて行くことが、法的責任を回避するためにも、必要です。

First Up-loaded on Mar. 12, 2005.

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グローバルな欠陥基準の特徴 (ロボットに関連するもの)

1.三極共に、客観的な安全性の期待への裏切りとか、不合理性を重視。 (前掲「グローバルな欠陥基準の概要」参照。)
  • なお日欧はほぼ同じ欠陥基準。 ∵日本は欧州を真似て立法。
  • 米国の欠陥基準は、日欧よりも更に機能的かつ分類が詳細。 ∵PL先進国ゆえに、豊富な経験と蓄積から帰納的に詳細な分類化が可能になりました。
2.三極共に、諸要素を考慮・衡量して、ケース・バイ・ケースに裁判所が決します。(後掲「諸要素の考慮・衡量(日本)欧州)(米国)」)
3.諸要素の中でも特に、「消費者の期待」の要素が欠陥認定に於いて大きな役割。(後掲「『消費者期待』の要素」(日欧)米国)参照。) 
  • なお「消費者期待」に於ける「消費者」とは、本来は客観化された「一般合理人」。すなわち「原告≠消費者」。
  • しかし現実の訴訟実務では、「原告=消費者」すなわち「原告の期待=消費者期待」であると、すりかえられる虞、大。
  • See, e.g.,  「…被害者の保護を図り…」 (製造物責任法infra 第1条「目的」)。
  • 「原告寄り」(pro-plaintiff)な法制度。(本来は、「原告寄り」≠ 「消費者寄り」なのですが、どこまで理解されるかは不明。)
  • 「自己責任」の倫理の衰退?!
  • 工学技術の世界だけでなく法律世界に於いても「ユーザ・フレンドリー」な視点へ時代が変化している、という前向きな理解も必要。 (後掲「human factors engineeringの必要性」に於いて指摘するように、法的にも設計に於いて人間工学的視点に優先権を置くことが重要。)
4.「不十分な指示警告」も欠陥であるという認識の共有。 (後掲「『不十分な指示警告』も欠陥」(日欧)米国)参照。)
5.指示警告さえすれば免責される訳ではなく、指示警告の前に設計による安全性確保が問われます。 (後掲「指示警告の前に求められる安全設計」(日本)米国)参照。)
6.「明白な危険」であっても(ユーザの誤使用でも)、設計欠陥の虞や、危険度や回避方法等の指示警告懈怠の虞アリ。
7.安全規制法令遵守により即免責とはならないが、考慮の一要素とはなり得ます。業界基準遵守も。 (後掲安全規制法令遵守の効果(日本)米国そのII)」、及び、「業界基準の考え方(欧州)米国)」参照。」)
8.設計者の意図に反した(機能に反した)事故が生じると、即、欠陥認定に繋がり易い。(後掲「意図した機能に反した事故発生時の責任(日本)米国)」参照。)

First Up-loaded on Mar. 12, 2005.

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諸要素の考慮・衡量(日本)

…『欠陥』とは、当該製造物の特性その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期 その他当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。」(製造物責任法第二条二項)(強調は付加)

「当該製造物の特性」
製造物の効用・有用性 (危険との比較考量)
製造物の表示 (事故を防止するための表示等)
製造物の価格対効果 (同価格帯の製造物の安全性の水準との関係)
製造物の通常使用期間・耐用期間
被害発生の蓋然性とその程度
「その通常予見される使用形態」
製造物の合理的に予見される使用
製造物の使用者による損害発生防止の可能性
「その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期」
製造物が引き渡された時期 (当該製造物が引き渡された時点の社会において要請される安全性の程度等引渡し時の社会通念)
技術的実現可能性 (同時点における合理的なコストによる代替設計の可能性)
「その他の当該製造物に係る事情」
製造物のばらつき状況(アウスライサー)
天災等の不可抗力の存在
See, e.g., 第129回 国会 参議院 商工委員会 会議録 平成六年六月二十日(政府委員により立法者に対して閣法案の趣旨を説明.   See also通商産業省産業政策局消費経済課『製造物責任法の解説』(平成6年、(財)通商産業調査会)(公平中立な立場から立法者意思を解説)(強調付加).

First Up-loaded on Mar. 12, 2005.

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諸要素の考慮・衡量(欧州)

EC理事会指令
Article 6
1.
A product is defective when it does not provide the safety which a person is entitled to expect, taking all circumstances into account, including:

(a) the presentation [外観] of the product;

(b) the use to which it could reasonably be expected that the product would be put;  [and]

(c) the time when the product was put into circulation.
EC COUNCIL DIRECTIVE (emphasis added).
起草者による解説
“All the circumstances of a product liability case have to be taken into account in designating a product as safe or defective. Articles 6(1) (a), (b), and (c) provide some examples.   ….”
Hans Claudius Taschner, Harmonization of Product Liability Law in the European Community, 34 TEX. INT’L L. J. 21, 30 (1999) (EC理事会指令起草者タシュナーによる同指令解説論文).

First Up-loaded on Mar. 12, 2005.

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諸要素の考慮・衡量(米国)

"....  A broad range of factors may be considered in determining whether an alternative design is reasonable and whether its omission renders a product not reasonably safe.   The factor includes, among others, the magnitude and probability of the foreseeable risks of harm, the instructions and warnings accompanying the product, and the nature and strength of consumer expectations regarding the product, including expectations arising from product portrayal and marketing.   See Comment g.   The relative advantages and disadvantages of the product as designed and as it alternatively could have been designed may also be considered.   Thus, the likely effects of the alternative design on production costs;  the effects of the alternative design on product longevity, maintenance, repair, and esthetics;  and the range of consumer choice among products are factors that may be taken into account.   …; their relevance, and the relevance of other factors, will vary from case to case.   Moreover, the factors interact with one another.   For example, evidence of the magnitude and probability of foreseeable harm may be offset by evidence that the proposed alternative design would reduce the efficiency and the utility of the product.   On the other hand, evidence that a proposed alternative design would increase production costs may be offset by evidence that product portrayal and marketing created substantial expectations of performance or safety, thus increasing the probability of foreseeable harm.  ....    
   When evaluating the reasonableness of a design alternative, the overall safety of the product must be considered.   It is not sufficient that the alternative design would have reduced or prevented the harm suffered by the plaintiff if it would also have introduced into the product other dangers of equal or greater magnitude."

RESTATEMENT (THIRD) OF TORTS: PROD. LIAB. §2 cmt. f (Design defects: factors relevant in determining whether the omission of a reasonable alternative design renders a product not reasonably safe) (1998) (emphasis added).

First Up-loaded on Mar. 12, 2005.

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「消費者期待」の要素(日欧)

日本: 解釈の主流 --- 政府説明に於いて消費者期待基準は肯定されていません。  解釈論的には、一般合理人としての通常人が云々されています。

「『通常有すべき安全性』の内容は、... 究極的には、製造業者、消費者を含めた通常人が具備すべき安全性として期待しているものであるかどうかで判断されることになる...。」

衆議院 商工委員会 会議録 平成六年六月六日 坂本政府委員説明

「例えば消費者の期待する安全性、こういう考え方もあるわけですけれども、この法律というのはかなり中立的な性格を持っておりまして一般的に人が期待する安全性、客観的にこれを判断すると、したがて、世の中全体から見てもこの場合には責任を認めた方がいい、そういう趣旨の欠陥ということになるわけであります...。」

参議院 商工委員会 会議録 平成六年六月二十一日 川井健参考人(我妻試案元メンバー、帝京大法学部教授)説明

「欠陥を判断する際に基準とすべき主体については、製造者、消費者も含めた社会にあるべき期待の内容を具現するという意味で『通常人』とすべきである。」
第14次国民生活審議会消費者政策部会最終報告「製造物責任制度を中心とした総合的な消費者被害防止・救済の在り方について」(平成5年12月)(強調付加)
_________________
欧州: EC理事会指令 / 起草者による解説
Article 6
1. A product is defective when it does not provide the safety which a person is entitled to expect, …
EC COUNCIL DIRECTIVE (emphasis added).
“It is up to the judge to decide what degree of safety may be expected.   The term "entitle" relates to court decisions.   The expectation is not that of the injured party, but that of the public at large.   The concept is an objective, not a subjective one.
Taschner, Harmonization, supra, at 30 (emphasis added).

First Up-loaded on Mar. 12, 2005.

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「消費者期待」の要素 (米国)

"Under Subsection (b), consumer expectations do not constitute an independent standard for judging the defectiveness of product designs.   Courts frequently rely, in part, on consumer expectations ….   Some courts, for example, use the term “reasonable consumer expectations” as an equivalent of “proof of a reasonable, safer design alternative,” since reasonable consumers have a right to expect product designs that conform to the reasonable standard in Subsection (b).    Other courts, following an inference of defect to be drawn when the incident is of a kind that ordinarily would occur as a result of product defect, observe that products that fail when put to their manifestly intended use disappoint reasonable consumer expectations.   See §3.   ….    [C]onsumer expectations about product performance and the dangers attendant to product use affect how risks are perceived and relate to foreseeability and frequency of the risks of harm, both of which are relevant under Subsection (b).   See comment f.    Such expectations are often influenced by how products are portrayed and marketed and can have a significant impact on consumer behavior.   Thus, … [] consumer expectations …, may substantially influence or even be ultimately determinative on risk-utility balancing in judging whether the omission of a proposed alternative design renders the product not reasonably safe.
      
   Subsection (b) likewise rejects conformance to consumer expectations as a defense.   The mere fact that a risk presented by a product design is open and obvious, or generally known, and that the product thus satisfies expectations, does not prevent a finding that the design is defective.   But the fact that a product design meets consumer expectations may substantially influence or even be ultimately determinative on risk-utility balancing in judging whether the omission of a proposed alternative design renders the product not reasonably safe.   …." 
RESTATEMENT (THIRD) OF TORTS: PROD. LIAB. §2 cmt. g (Consumer expectations: general considerations) (1998) (emphasis added).

First Up-loaded on Mar. 12, 2005.

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「不十分な指示警告」も欠陥 (日欧)

日本: 国会審議時の政府答弁に於いても、前掲「当該製造物の特性」 の中の特に「製造物の表示 (事故を防止するための表示等)」 に関し、指示・警告が考慮要素である旨が明らかにされています。
「したがって、こうした指示・警告に係る表示等が求められるか否か、あるいは、ある製造物にとって指示・警告に係る表示が適切になされているか否かの点は、製造物の特性と見ることができる
衆議院 商工委員会 会議録 平成六年六月三日(通商産業省清川政府委員答弁)in 『製造物責任法の解説』supra, at 78頁(強調付加) .
_________________
欧州: EC理事会指令
Article 6
1. A product is defective when it does not provide the safety which a person is entitled to expect, taking all circumstances into account, including:

(a) the presentation [外観] of the product;
….
EC COUNCIL DIRECTIVE (emphasis added).
起草者による解説
"[T]his strong form of liability [under the Directive] is also provided for in design defect cases and cases where the defect arises from the producer’s failure to provide a warning"
Taschner, Harmonization, supra, at 29 (emphasis added).

First Up-loaded on Mar. 12, 2005.

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「不十分な指示警告」も欠陥 (米国)

? 前掲「グローバルな欠陥基準の概要」に於ける米国の基準の(c)参照。
しかし実際には、どこまで指示警告義務があるのかを基準化することが一番困難な欠陥類型。
....   Product warnings and instructions can rarely communicate all potentially relevant information, and the ability of a plaintiff to imagine a hypothetical better warning in the aftermath of an accident does not establish that the warning actually accompanying the product was inadequate.   No easy guideline exists for courts to adopt in assessing the adequacy of product warnings and instructions.   In making their assessments, courts must focus on various factors, such as content and comprehensibility, intensity of expression, and the characteristics of expected user groups.
RESTATEMENT (THIRD) OF TORTS: PROD. LIAB. §2 cmt. i (Inadequate instructions or warnings) (1998) (emphasis added).

First Up-loaded on Mar. 12, 2005.

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指示警告の前に求められる安全設計 (日本)

日本: 国会審議時の政府答弁に於いても、指示・警告をしたからといって責任が回避されるとは限らない点が、明らかにされています。
「例えば、作動中に蓋を開けても脱水槽の回転が停止しない洗濯機のように、設計上又は製造上除去し得るような危険性が除去されていない製造物においては、表示の有無や内容如何にかかわら一般的に欠陥の存在が認定される可能性が高いと考えられる
衆議院 商工委員会 会議録 平成六年六月十日(通商産業省清川政府委員答弁)in 『製造物責任法の解説』supra, at 78頁(強調付加)

First Up-loaded on Mar. 12, 2005.

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指示警告の前に求められる安全設計 (米国)

米国の基準でも、明白なリスクだからといっても、危険効用基準によって、企業・メーカが必ずしも免責されるとは限りません。

危険の明白性は、欠陥性の判断に関係するとはいっても、だからといって、原告が、更に理に適った代替設計案(RAD:a reasonable alternative design)を提示することが許されていない訳ではないからです。  以下、第三次リステイトメントのコメント参照。

....  In general, when a safer design can reasonably be implemented and risks can reasonably be designed out of a product, adoption of the safer design is required over a warning that leaves a significant residuum of such risks.   For example, instructions and warnings may be ineffective because users of the product … may be insufficiently motivated to follow the instructions or heed the warnings.   ….   Warnings are not, …, a substitute for the provision of a reasonably safe design.
   The fact that a risk is obvious or generally known often serves the same function as a warning.   See Comment j.   However, obviousness of risk does not necessarily obviate a duty to provide a safer design.   Just as warnings may be ignored, so may obvious or generally known risks be ignored, leaving a residuum of risk great enough to require adopting a safer design.   See Comment d.   
RESTATEMENT (THIRD) OF TORTS: PROD. LIAB. §2 cmt. l (Relationship between design and instruction or warning) (1998) (emphasis added).

危険効用基準は企業寄りであるなどと、アメリカの真の製造物責任法を誤解している向きには、ここを理解することが重要です。 危険効用基準は必ずしも企業寄りではないのです。

そもそも「企業寄り 対 消費者寄り」などという短絡的な対立構造でとらえることが、ナンセンスです。 

誰寄りか問われて敢えて応えるならば、それは、原告以外の多数の消費者も含む者寄り、合理的な人寄り、の基準なのです。 

消費者期待基準の消費者を「原告」であると誤解せず、これを「一般合理人」だとするならば、危険効用基準は消費者期待基準を更に詳しくしたものなので、両者はその意味で一致するのです。

First Up-loaded on Mar. 12, 2005.

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「明白な危険」と予見可能な「誤使用」 (日米)

前述の通り、明白な危険(patent danger)だからといって設計欠陥の責任を回避できるとは限りません。

同様に、ユーザ側の誤使用(mis-use)も、合理的に予見可能な範囲の誤使用であれば、安全対策を怠った責任を問われ得ます。 (実務的には、どこまでが予見可能だったか否かが難しいところですが。) (なお、誤使用の事実は、欠陥の有無の認定に関係するだけでなく、相当因果関係(proximate cause)の有無や、過失相殺(comparative fault)の認定にも関係します。すなわち、例えば[原告救済の視点から]欠陥アリとされても、過失相殺5割として賠償金額を減額する、という結論になる場合もあります。 このように、欠陥存在に関する白か黒かだけでwinner-take-allな不当・酷な結論にならないように、特に過失相殺は重要な調整機能を果たします。)

日本で参考になる裁判例は以下。

なお、米国の第三次リステイトメントのコメント部は、誤使用が稀なもので、かつ、代替設計が高額になるような場合には、欠陥が無かったと判断されるであろうという示唆を与えてくれています。   RESTATEMENT (THIRD) OF TORTS: PROD. LIAB. §2 cmt. p.

First Up-loaded on Mar. 12, 2005.

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続きは、「ロボットPL 2」のページを参照下さい。

【未校閲版】without proof

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