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Law & Cognitive Science, Decision Making, and Behavioral Economics
Cornell University
      


筆者が参加したコーネル大学における学際研究の一つである、
法と認知科学、行動決定論、行動経済学等に関する主なワークショップの概要を紹介するページ

Research Results of Law & Cognitive Science, Decision Making, and Behavioral Economics
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Behavioral Economics, Decision Making
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Uri Gneezy, UC San Diego

Feb. 22, 2012
@ 141 Sage Hall (Business School)



Sage Hall
"Incentives and Behavior Change"[to be published at a journal]
概要: 誘因が行動を向上させるだけではなく、逆に、中長期的には内的・自発的な行動の意欲を減退させてしまうとの説もある。そこで、誘因が効果的に作用する場合と、逆効果な場合とについて、様々な先行実証研究結果を紹介しつつ、良き慣行(日課として運動をする)を奨励する為の誘因が中長期的に効果的か否かについて今回行った実証研究結果を紹介。
 そもそも経済学者は「誘因incentives=動機motivations」と同意に捉える。しかし心理学者は「誘因→動機→行動behaviors」のように捉える。
誘因の効果を探る上では、次の三種類を検討することが必要。@内的動機intrinsic motivationと外的動機extrinsic ___、A誘因が与える影響度magnitude、およびB誘因の種類types(お金なのか、その他の誘因か)。 誘因には4つの効果がある。@signals(例えば遅刻したら$5の罰金を科す)、A規範norms(ドイツでは時間通りに来る規範がありイタリアは異なるけれども、誘因が規範を変えることもある、遅刻の罰金が安価過ぎると遅刻しても問題ないと皆が捉える)、B侮辱insults(付き合ってくれたら$10あげるという誘因は安過ぎるから却って侮辱することになる)、C信頼trust(信頼している意思表示が動機になっている場合に金を付与すると言えば却って逆効果になる、例えば国際会議で国を代表しているメンバは意気込んで土日も残業する気なのに、残業代を支払おうと言えば、金目当てで残業していると思われたくないから却って残業しなくなる)。
 学部生を被験者として、ジムに通ったら●●ドル付与するとゆー誘因を与えたところ、誘因を与えた期間は通う確率が以前より増加。しかし2年後に追跡調査したら以前の状態に戻っていた。しかし不思議なことに、2年後のGPAを調査したところ以前よりも向上していた。因果関係は不明。余りにも不思議な結果だったので、このGPAのことは論文には書いていない。
 今回の論文外の調査についてもプレゼン。テーマは「Self-Signaling」。仮説は、人が自分は良い人間であると自分自身に見せたいとゆー動機が強い[のであって他人にどー見られるかよりも重要である]というもの。「Pay What You Want」式の値付の効果の実証実験を行った。或るアミューズメント・パーク「D」のライドの入口で、客の写真を撮って出口で購入できる商売の値段を、以下の4種類に分けて一日の客全員の結果を実験。@固定価格$12.95、A$12.95だが値段の半分は既定のチャリティー(子供の為のチャリティー)に分配される、B「PWYW」(客が自身で支払いたい額だけ支払う)、およびC「PWYW」だがその値段の半分が既定のチャリティーに分配される。客全員の内の購入者の比率は、@が最低で僅か0.5%しか購入せず。逆にBは最高で8%だがこのBの平均値段は僅か$0.92で原価割れ。Cは4.1%も購入者に成ってしかも平均値段が$5.32に達した。ちなみに1日の売上総額は、@が僅か$18Kなのに、Cは何と$62Kにも至った。そして何と1人当たりの利益率は、Cが断トツで一番。これは「Self-Signaling」を証明している。同じPWYWでもチャリティー無しのBでは平均$0.92しか支払わないのに、チャリティーを組み込んだ途端に$5.32も支払うように変化
 なお、別の実証研究として、欧州の或るレストランで、チップを封筒に封印して渡すようにしてみたところ、通常のチップの額よりも平均値が増額したという例もあり、これは正に「Self-Signaling」を実証している(他人に良く見られたいのではなく、自身に良い人間であると見せたい動機が強いことの証明)。

コメント: 大変興味深い発表だった。場所が、前回(経済学者がベイズ理論の数式も使ったプレゼンだった)同様のビジネス・スクールでの発表だったが、前回よりも明らかに聴衆の数も増え、質問も多く熱心だった。確かに数式の経済学よりも面白い研究である:-)。
 それにしても最近アメリカでは、代金の内の何%かがチャリティーに分配されるとゆークルマの宣伝(スバルが昨年末にキャンペーンしていた)を目にする。このビジネス・モデルは、正に今回の発表の、行動に対する誘因と動機の研究成果が影響していると推察される。尤もこの誘因の効果は文化・国によっても異なるかもしれない。チャリティー文化がアメリカ程には熱心ではない日本では、果たして同じビジネス・モデルが成功するか否か、興味深い。
   
 Victoria Talwar, Associate Prof. at McGill Univ. (Canada)

Feb. 16, 2012

@ Faculty Lounge at Law School 
 "The Child Witness Project: Examining the Assessment of the Competence of Child Witnesses" [to be published as the Chapter 4 in some book]
概要: 子供(3〜7歳)の証言能力について疑問を抱く裁判所の偏見を払拭する実証実験結果と、その成果がカナダの証拠法の制定法改正に繋がったとゆーお話。
 証言には次の4つの争点がある。@capability to communications、Amemory、Bsuggestibility、およびCverasity(正直さ)。今回の論点は@[およびC]についてである。子供の証言は一般に信頼できない(unreliable)と捉えられて来た。そこで実務では裁判官が、次のような質問をして子供の証人候補者に対して証言能力(capability)を試すことが行われて来た。質問の内容は例えば、神を信じているか、神を理解しているか、日曜日には教会に行っているか、神に対して嘘を吐かないと約束することの意味を理解するか、[聖書に手を置いて真実のみを述べると誓う]誓約の意味を理解するか等々の、抽象的で且つ信仰に結びつくよーな内容だった。
 特に実務では裁判所が、「真実(truth)」「嘘(lie)」「約束(promise)」という3つの概念の理解を試すのが慣行だったが、その質問は抽象的であり子供証人候補者を当惑させていた。この慣行は、3つの概念の理解が、信頼できる証言の前提条件であると看做していたけれども、何の実証研究の裏打ちも存在していなかった。そこを疑った研究者達は、子供達の被験者に対して、これらの相関関係を実験した。尤も、「約束」については意味を理解しているか否かを試さずとも、嘘を吐かないように事前に約束させることによって、嘘を吐く確率が減少することも実証された。その結果、3つの概念の理解と証言の真実さとの間には相関関係が無いことが明らかになり、カナダの証拠法に関する制定法が次のように改訂されることに繋がった。すなわちカナダ改訂証拠法に於いては、子供(14歳未満)の証人候補者に対して、宣誓を求めてはならない。しかし真実を述べるように約束させなければならない。尤も約束の意味を理解しているか否かを問うてはならない、等とされた。

コメント: 僕が最も関心を抱いている民事法系における「法と認知心理学」系の実証研究論文は通常、法のルールの前提を疑って実証研究で誤謬を明らかにする傾向が見受けられる。今回の論文は証拠法、特に刑事手続法や親族法(子供の権利保護)に近い分野のものであったけれども、やはり法慣習の前提を疑って、その前提を実証実験で覆す内容であった。「法と認知心理学」系の研究の素晴らしいところは、正に、法や法慣習が当たり前として来た前提を見事に覆す点にあるとの認識を再度確認することが出来た
 ところで子供の証言は、誘導尋問的な誘導に対して大人よりも脆弱であるとゆー話を聞いたことがあったので、この点について質問したかった。が、質問する前に講師がこれを肯定するような発言をQ&Aの部分で述べていたので、記録の為にここに追記しておく。(前掲のB「suggestibility」の論点)