***第一回***
"Never in the field of human conflicts was so much owed by so many to so few.".
人間の争いの中で、かくも少なき人々に、かくも多くの人々が恩恵を受けた例(ためし)は無い。
「バトル・オブ・ブリテン」(*)に勝利したチャーチル首相の名演説
(*) 「The Battle of Britain」: 第二次大戦中の対独防空戦。1940年5月~10月。
法律学も経済学も「偽善」である。
両者共に、「人の為に善い」規範や活動を求める。
そして「偽善」とは、「人の為に善い」と綴るのである…?!
平野 晋
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"An economist is an expert who will
know tomorrow why the things he predicted
yesterday did not happen today."
経済学者とは、昨日予見したことが何故今日起きなかったかを明日知る専門家である。
Jacob Jacoby, Is It Rational to Assume Consumer Rationality? Some Consumer Psychological Perspectives on Rational Choice Theory, 6 ROGER WILLIAMS U. L. REV. 81, 151 n.192 (2000). *****************************************************************************************************************************
関連ページは、「現代不法行為法理論」の中の「経済学的抑止論」(Economic Deterrence Theory)
Susumu Hirano, Professor of Law, Faculty of Policy Studies, Chuo University (Tokyo, JAPAN); Member of the New York State Bar (The United States of America). Copyright (c) 2015 by Susumu Hirano. All rights reserved. 但し作成者(平野晋)の氏名&出典を明示して使用することは許諾します。 もっとも何時にても作成者の裁量によって許諾を撤回することができます。 当サイトは「法と経済学」の研究および教育用サイトです。
【未校閲版】without proofreading
第一回 「序論(イントロダクション」 / 「法と経済学」とは何か? 学際的 総合政策的 法律学 ミクロ経済学 ハイポ
第二回 「序章」の続きと「総論」 (第一回を受講しなかった学生の為に前回の復習的な講義)
第三回 「序論」「総論」の続きと、経済学のイントロダクション
第四回 合理的選択理論、需要(消費・効用極大化)と供給(生産・利潤極大化)と、均衡と賃料規制と独占
第五回 総論の続き(パレート最適、カルドア・ヒックス効率、効率性対衡平性、等)
第六回 「市場の失敗」(外部化)と「迷惑メール」と「共有地の悲劇」
第七回 「市場の失敗」の続き―「公共財」「協力ゲーム」「囚人のジレンマ」「交渉[取引]理論」
第八回 財産権と「反共有地の悲劇」と、会社法の法と経済学
第九回 会社法(自己資本比率と危険愛好)の続きと、「コースの定理」
第十回 「コースの定理」の続き
第十一回 「"不法行為"法と経済学」
第十二回 「"不法行為"法と経済学」の続き
第十三回 「"不法行為"法と経済学」の続き
第十四回 「"不法行為"法と経済学」の続き
ジョン・ロールズによる批判 ~公正としての正義、分配に於ける正義、他~
「規範的法哲学者」(normative legal philosophers)とは…
ドゥオーキンによる批判
「法と経済学」と「シカゴ学派」の歴史
アメリカ法学に於ける学際研究の歴史と、法と経済学とカラブレイジ
「パレート最適」よりも「カルドア・ヒックス効率」の方が「法」の経済的分析に適する理由
【未校閲版】without proof
教 科 書
2006年 中央大学出版部
https://up.r.chuo-u.ac.jp/up/isbn/ISBN4-8057-0719-4.htm(last visited Sept. 24, 2020).
法と経済学(総論) Law & Economics
「学際的」とは…↓
- 法律学が独立してその中だけで完結できるという古来の因習的法律学への懐疑・批判。
- ミクロ経済学「的」(含、厚生経済学「的」)な思考を応用した法律学。
i.e., 稀少(scarce, scarcity)資源を、如何に配分すべきか? ➜ 教科書 『アメリカ不法行為法』 217頁。
「Deadliest Catch」(ベーリング海の一攫千金) https://www.youtube.com/watch?v=0xKLZ7iZZCs
「道具」 ( instrumentality ) 理論的な視点を入れる。つまり、法は目的達成の道具。
近年では、「倫理哲学」や「認知心理学・行動科学」等からも学際的に分析。
テキストでは、更に「行動科学」「認知心理学」「行動経済学」「倫理哲学」「法と文学」「法と大衆文化」等々からも分析。 --- 〝学際法学〟「Law ands(ロー・アンズ)」
「法と経済学」は「規範」を論じ、規範の正当性を得る為には、効率性だけからではなく倫理哲学等からの支持も必要という点もテキストは強調。
アメリカで「法と経済学」が誕生し発展した理由の一つは、学部レベルで法学が教育されないから。⇒ 法律「以外」の学識の上に初めて法学が教えられる。
「政策的」とは…↓
- 政策の例: 「AIネットワーク社会推進会議」@総務省 / 「AIガバナンス検討会」の構成員
— 政策議論の例: 「汎用AIをソフトロー規制の射程に入れるべきか否か?」
➜ 総務省 「AIネットワーク社会推進会議 第6回 議事概要」〈https://www.soumu.go.jp/main_content/000513654.pdf〉(last visited Sept. 24, 2020).
- 諸学問分野からの分析結果を「総合」して、「目的達成のために採るべき手段を判断」。
i.e., どちらを勝訴させた方が社会にとってより望ましいか?
∴「巨視的」(macroscopic)である。 ← 因習的な法律学は「近視眼的」(myopic)であった。
同時に、経済効率性以外の諸価値、諸考慮も。
テキストは、不法行為法(含、製造物責任法)に於ける総合的・学際的な判断の必要性を示している。
特に、「財産[権]法」(含、知的財産権)(*1)、「契約法」(*2)、および「不法行為法」(*2)に於ける分析
(*1)(*2)(*3): そもそも法律学の分類は、「公法」と「私法」、当学部では「民事法」「刑事法」「公法」の三分類。加えて主要な分類は「実体法」と「手続法」、「一般法」と「特別法」、「大陸法」と「英米法」。 ちなみに中央大学の伝統は英米法。「中央大学の建学の精神」=「實地應用ノ素ヲ養フ」(*4) .... ⇒ 「行動する知性」 "Knowledge into Action!"
(*4)
創立者たちがこの学校を設立した目的は、イギリス法(英米法)の長所である法の実地応用に優れた人材を育成するために、イギリス法の全科を教授[することにありました。] / 創立者たちの「建学の精神」は、抽象的体系性よりも具体的実証性を重視し(*5)、実地応用に優れたイギリス法についての理解と法知識の普及こそが、わが国の独立と近代化に不可欠であるというものでした。 (「中央大学の建学の精神」より)(強調&注付加)
(*5) 抽象的な大陸法よりも、具体的実証性を重視する英米法とは、以下参照。
「法と経済学」は、「経済学」ではない――独立した学問領域であり、かつ、どちらかと云うと「法律学」に於いて発展。See 『アメリカ不法行為法』 at note 2 at 215 and accompanying text. → 学際的、「ロー・アンズ」(law ands)、法哲学、法社会学、等々。
ミクロ経済学/厚生経済学的思考を用いる。
ミクロ経済学=家計の消費と企業の生産という個別経済から全体を議論し、市場を研究対象にする。 / 厚生経済学=効率、所得分配、厚生(welfare)の極大化を研究対象とする。 --- 前者は「資源の効率的な配分(allocation)」を重視。後者は「富の公正な分配(distribution)」にも思いを馳せる…。
稀少(scarcity)資源を、多様な重要性を有する欲求の間で、如何に配分すべきか?
稀少資源 効率的利用促進。
巨視的(macroscopic)な(i.e., 社会的な目標から望ましい法を探る)点に於いて、これまでの法律学の以下の特徴に対峙: ①当事者間の利益衡量を量る、②条文・文言解釈。
一つのアプローチであって、全てではない。
[平野: 法にとっては、たとえば「倫理哲学」(Moral Foundations)的な視点も重要]
[平野: 「行動経済学」(behavioral economics)や「認知心理学」(cognitive psychology)等からの、新しい批判も重要。]
小林&神田infra, at ___(最初と最終章); クーター&ユーレン, infra, at 11-17.
hypo..を利用[1]
「ハイポ」(hypothesis, hypothetical)とは…。「事例研究」!!
E.g., 鉄道と沿線農家 See 『アメリカ不法行為法』 at 249.
工場と周辺住民 『アメリカ不法行為法』 at 247.
自動車と歩行者、etc. Id. at 248.
迷い牛と隣接農地の被害 (有名な「コースの定理」) Id. at 239-40.
どっちが勝訴すべきか? --- 因習的な法律学(*)では…。v. 法と経済学では…。
(*)これまでの法律学の以下の特徴に「法と経済学」が対峙: ①当事者間の利益衡量を量る、②条文・文言解釈。 小林&神田infra, at 190.
(講義は以上迄にて終了; 続きは次回に。)
See平野晋『アメリカ不法行為法---主要概念と学際法理』342-44頁(中央大学出版部、2006年)の第二部、第II章.
「法と経済学」および「批判的法学研究」(CLS: critical legal studies)との比較に於いて、第三番目の法の原理的な学派としてのジョン・ロールズのことを、倫理哲学的に不法行為法を分析する指導的学者のGeorge P. Fletcherは以下の論考に於いて次の様に指摘しています。
出典: George P. Fletcher, Why Kant, 87 COLUM. L. REV. 421 (1987).
- 非功利主義者的な諸価値(nonutilitarian values)に法の原理を置こうと試みる第三のグループは、「規範的法哲学者」(normative legal philosophers)と呼ばれる。彼等は以下の二つの前提に立っている。①効用と効率を凌駕する「権利」を個人が有していること。および、②規範を構築することによって倫理的生活と法的生活を形成することが可能であること。
- 以上の前提に立つ中心的な著作は、JOHN RAWLS, A THEORY OF JUSTICE (1971)である。
- ところでロールズの「原初状態」の方法(Rawls' method of the original position)は、一方当事者が他方当事者を不適切に侵害乃至加害したか否かという典型的な民事法律紛争を解決する為のルールを余り教えてくれない。何故なら原初状態に於いては、カガイシャとヒガイシャの双方を満足させるようなルールを採用する余地など存在しないからである([T]here is no way in the original position to adopt a rule that would be satisfactory to both transgressor and victim.)。
Fletcher, Why Kant, supra, at 428-29.
有名な批判は、ドゥオーキンの以下の論文です。
Ronald M. Dworkin, Is Wealth a Value?, 9 J. LEGAL STUD. 191 (1980).
「法と経済学」は、社会に於ける富の極大化を善として、それ自体が目的化しているようです。
しかし、富の極大化自体が何故、善なのでしょうか?
法が本来目指すべきは、「福祉の極大化」(welfare)であるべきです。
「法と経済学」という比較的新しい学際的学問分野の出現に於いては、いわゆる「シカゴ学派」(Chicago School)がその勃興に貢献したという指摘を、しばしば目にします。
それでは一体、その法と経済学のシカゴ学派というものはどのように出現したのでしょうか?その歴史を簡潔に示すものとして、以下の論考の中から紹介しておきましょう。
出典: Minda, James Boyd White's Improvisations of Law As Literature, infra, at 157, 168-170.
アメリカでは古くから学際的に法律学を研究していた点を、倫理哲学的に不法行為法を分析する指導的学者のGeorge P. Fletcherが、以下の論考に於いて次の様に指摘しています。
出典: George P. Fletcher, Why Kant, 87 COLUM. L. REV. 421 (1987).
(n.17)Calabresi, Some Thoughts on Risk Distribution and the Law of Torts, 70 YALE L. J. 499 (1961).
(n.18) K. LLEWELLYN & E.A. HOEBEL, THE CHEYENNE WAY (1941).
この点についても、前掲George P. Fletcherが、以下の論考に於いて次の様に指摘しています。
出典: George P. Fletcher, Why Kant, 87 COLUM. L. REV. 421 (1987).
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"[E]very lawyer ought to seek an understanding
of economics" because [w]e learn that
for everything we have to give up something
else, and we are taught to set the advantage
we gain against the other advantage we lose,
and to know what we are doing when we elect.
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Oliver W. Holmes, The Path of the Law, 10 HARV. L. REV. 457, 474 (1897) cited in
Stephen G. Gilles, The Invisible Hand Formula, 80 VA. L. REV. 1015, 1042 (1994).
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:-)